様々な種族が暮らすレイテトリア大陸。
この大陸には、2つの大きな国があった。
一つは人間が支配する国『スヴェルバニア』
今一つはエルフが支配する国『フレルデニア』である。
かつてエルフ達は貴族と呼ばれ、人間を遥に超える能力と長寿、そして魔道の叡智により永らく世界の主として繁栄していた。
しかし、元々エルフの奴隷として使役されていた人間達の一斉蜂起により独立が果たされ、大陸は分断。
それから、両国……両種族の永きにわたる対立が始まった。
個々の能力に勝り魔法を自由に操るエルフに対し、数に勝り様々な道具を駆使する人間。
不毛な争いは、どちらに分が傾くということもなく、危うい均衡を保ちながら幾年もの歳月を重ね続けた。
そして、現在――
長引く争乱に両種族達は、すっかりと疲れ果て、戦いの意義を見出せなくなりつつあった。
元より、互いの種族を根絶やしに出来る筈もないことは分かりきっている。
おびただしい血を流し続けた果てに得られるものが、それだけの甲斐があるものか……人々はとっくに気づいていた。
やがて、双方の国王は和平交渉への道を探るようになり――
幾度かに渡る使者の行き来を経て、遂に一つの結論へと合意するに至った。
それは、過去の歴史の慣わしに用いられた血の交流。
即ち、互いの跡取りを結婚させ、血族とさせるということである。
無論、その結論にたどり着くまでに、様々な紆余曲折があったことは言うまでもない。
大国同士の、それも異種族による婚姻なのだ。
特にプライドの高いエルフ側……中でも、王族や支配階級に多いハイエルフ達には、根強い反発の声も大きかった。
だが、それではどうするべきなのか……いざそれを問うた所で、彼らに民衆を納得できるだけの案がある訳ではなかった。
このまま戦いが長引けば、徒に互いの国力を消耗し、それが更なる混乱、分裂を呼び起こす可能性もある。
事が急を要する中、それが実現に至ったのは、当事者たるフレルデニアの第一姫、アルスラの存在が大きい。
かねてより両種族の対立に深い憂慮の念を抱いていた姫は、自分の身が和平の礎となるのならば喜んでと、賛意を示したのだ。
彼女はハイエルフの誇りを持つことと、人間と対等に接することは何の矛盾もないと説き……。
この不毛な関係を一刻も早く解消すべきであると、憂慮の言葉を表明し、両国の民衆から高い賛意を得た。
当の姫君からそう言われては、反対派もそうそう強く突っぱねることは出来ない。
かくして――
大いなる大陸の分断は、この婚儀を境に再び一つへと戻り、長い動乱も終わりを告げる……そんな期待に世界は包まれていた。
尚も慎重な協議を重ね、やがて吉日が選ばれる。
そして、結婚式の開かれる前日。エルフの姫は供を引き連れ、人間の国との国境にさしかかっていた……。