「ほう? おもしろそうじゃないか」
PCの画面上に踊る「美しすぎる女教師」の文字に有井文大(ありい ふみひろ)の目は釘付けとなる。
どうやら、この殺風景なマンションの一室で、退屈を持て余す生活に終わりが来たようだ。
呼びつけたSPに転入の手続きの指示を出すと、彼は慣れた手つきで荷物の整理を始めてゆく。
転入先として指示した先は、私立朔磨学園(さくまがくえん)。
地方にありながら、学生による学園自治を重視するその独特な校風で注目を集めているらしい。
「学園自治? ハッ。馬鹿馬鹿しい」
そんなものは、どうでも良かった。
彼にとって「美しすぎる女教師」の見出しの横に映っていた女性の写真こそが珠玉の意味を持っている。
学園自治などというオママゴトなど犬の餌にでもしてしまえ!
今や、彼の興味は「美しすぎる女教師」こと戸倉皐月(とくら さつき)の容姿が本物か否か、に集約されていた。
時は7月。
夏休みを目前に控えた私立朔磨学園の学生会室で、副会長の黛千夏(まゆずみ ちなつ)は片想いの相手である学生会長との「これから」を気にかけていた。
そこへ流れてくる「季節外れの転入生」の噂。
その噂の主によって、周囲の平穏が全て音を立てて瓦解していくことを、彼女はまだ知らずにいた……。